このところ、職場ののっぴきならない事情によって、自主的禁足処分を余儀なくされています。その道場へ行けない心のモヤモヤはSNSに反映され、一心不乱にシャープペンシルの解説を投稿する、狂気じみたタイムラインと化しています。
今日は朝からパンチが効いたものが多かったのも関係しているかもしれません。
白河の天然がかわいい奈美子先生からは「神棚の”神様”を購入してきます」というパワーワードが飛び出し、情報収集につかっているTwitterでは、麻薬犬をモデルにした税関のキャラクター「カスタム君」が出してるクイズのパンチが強すぎました。
ハッシュタグも素敵ですが、写真のヒントも配慮がキメ細かい。けど残念ながら実際にやってる人じゃないと、写真見ても目分量が分かりません。
正解者は常習者としてマークされるんじゃないか。
パンチのもらいすぎで、ちょっと疲れていたのかもしれません。きょうのことです。
職場を出て、道場へも行けないとなると、わかることがあります。居場所がない。
基本的に福島県での生活において、車を所持せずに徒歩と公共交通機関だけで強気の姿勢な生活を送っていると、致命傷です。情報弱者とはよく聞く言葉ですが、まさにいまの私は交通弱者。公共交通機関の軌道上でしか生息できません。
自由自在に飛散しまくる新型コロナウイルスの方が、まだ自由を謳歌しているんじゃないだろうか。
そんなわけで、駅ナカのスタバでコーヒーを舐めながら、妄想の世界へ旅立つことくらいしかできませんでした。
そうやって私は、妄想を羽ばたかせて、孤高を見つめ、魂に磨きをかけて昇りつめていくのです。あまりに昇りつめ、そろそろ高くなりすぎて怖くなり降りれなくなるころ、道場の仕事を終えた菜穂子先生が駅に来ました。夜9時半。
普通ならば夕食の時間。寒い道のりの末に家にたどり着くと、「食事にする?お風呂にする?」なんていう暖かい家庭を築いてきた自信があります。さて、家族での週末。何を食べようか。
「私とたけるはある程度食べて来たから夕飯いらない。好きにしていい」
車に乗り込むなりの先制パンチで、夕食放置プレイが決定しました。
好きにしていいと言いつつ、絶賛放映中の『ミニオン』鑑賞継続が条件だったので、私の選択の余地はごくわずかに。
もう考えるのもめんどうくさくなり、CoCo壱のカレーをテイクアウトすることにしました。メニューは迷わない。手仕込みささみかつとカキフライ。それに半熟たまごのタルタルソースをつけてもらったのです。
いざ、家に帰りつき、ひとりきりのカレーパーティー。なんだか、家族に食事を与えずに、自分だけが豪華な食事をしているバイオレンス世帯主みたいな状況。しかし何かがおかしい。
なんと、半熟たまご入りのタルタルソースが見当たらないのです。確かに頼んだはず…。
私の仕事は経理ですが、1円でも合わないと大変です。それは金額の多い少ないの問題ではなく、合わないという仕事のフロー自体に欠陥があるということだから。その欠陥が、これから先も1円の誤差しかださないという可能性はほとんどないのです。
タルタルソースがない。今回はタルタルソースだけど、次はソースだけが渡されて、カレー本体が来ないという可能性だってあるのです。確かめるしかない。
単純にオーダー漏れなら仕方がありません。
最近、胸に定期券を入れておきながら、出勤間際に「定期が見当たらない!」とまるでリオのカーニバルみたいに騒ぎたて、あげく自分でことの顛末に気付き、速やかに土下座的なものを繰り出したことは記憶に新しいです。
「失ったものを取り戻さなければ」。そんな使命感に最近燃えているのですが、もしかして取り戻さなければならないものは「正気」なんじゃないか。これはやばい。
お店に電話して伝票番号でオーダーを確認してもらいました。お店の人が注文内容を読み上げてくれます。するとそのなかに…。あったんです。タルタルソースが。
「そうでしたか、よかったです。タルタルソース、注文してたんですね。入ってなかったけど、注文してたならよかったです」
……。自分は確かに注文していた。それが分かってよかったのです。
「大変失礼しました。お届けにあがります」
「!? いえ、いいですよ、ソースくらい。次回から気を付けて下さい」
「そんなわけにいきません!お代頂いているので、どうかお届けさせてください」
「いえ、ほんとに大丈夫ですから」
「いえ、ほんとにそんなわけにいきません。お届けにあがりますので、お客様のご都合のいい日時、場所をお教えいただけませんか?」
「えぇ!?都合のいい日時!?(いやだってもう食べようとしてんだもん…)食べようとしちゃってるんで、いますぐってなっちゃいますけど…」
「承知しました、今すぐですね。伺います。住所を伺えますか?」
「住所はXXX-XXXのXXX号です」
「わかりました、すぐに伺います!」
とはいうものの、うちの建物はどこもかしこも部屋番号の表示は一切ありません。伝えたところで、迷うのが関の山。
万が一、違う部屋のピンポンを押したら、出てくるのは見知らぬおっさんです。心あたりのないおっさんが、タルタルソースを抱えたおっさんと出会う。そんなおっさんミーツおっさんの悲劇を繰り広げることもありません。
菜穂子先生には、さんざん「クレーマーだ」と罵倒されました。けれど私の固辞を、プロフェッショナルなお店がよしとしなかったのです。
私はクレームのつもりではなかったのですが、ソースなしのカキフライよりも、タルタルソースは有った方がいい。しかも半熟たまご入りです。
尿酸値やコレステロールを犠牲にしてもなお、待っていたかったのです。そこまで熱烈に届けてくれるなら、受け入れるのが粋ってもんでしょう。
「せめて見知らぬおっさん同士が出会う悲劇を阻止しよう」
私は部屋を出て、玄関の扉の前でタルタルソースを届けてくれる店員さんを待ちました。
そもそも近所なのでそんな時間もかからないはずなのですが、ふと思ったのです。
「何もせずに玄関の前で仁王立ちしていたら、単なる変態ではないか」
階段を上がってきて、そこで男が仁王立ちしていたら、それはもう事案です。タルタルソースを口実に待ち受けてた人と思われたくない。何かしらしておこう。そう思ってYoutubeを観ていました。
何を思ったのか自分でもわかりませんが、再生して観ていたのは、例の悲鳴がキュートなアラブ系ゴーストハンター、アドベンチャー・アラーの動画です。
ゴーストハンターの悲鳴が踊り場にこだますなか、ほどなく店員さんが現れました。
代金をとっていながら商品を入れていない。とても低姿勢です。
迎え撃つ私も、礼節を重んじるカスタマー。恐縮しまくって低姿勢です。
まずは、店員さんが陳謝の意を表明。すかさず私もわざわざすみませんと陳謝で返し、一進一退の攻防が始まりました。
クレーマーと思われてなるものか。こちらも礼を徹して迎え撃つぞ!余談ですが、半裸で出迎えるわけにもいかないので履いたズボンは、菜穂子先生のセットアップでした。素敵なサイズの違和感。
それはどうでもいいとして、開幕陳謝からとてつもない火の玉ストレートが飛んできたのです。店員さんが、頭を下げながら手渡してきたもの。当然、タルタルソースかと思いきや。
123円。
これには、たまげました。意表を突かれた。
私はタルタルソースが来るものと思っていたので、カレーも食べずに、寒空の下でYoutubeを観ながら待っていたのです。ところが、なんと店員さんは現金返金。
「なんでタルタルソースを都合のいい日時や場所にもってくるんだ?カレー持ち歩けってか?」
そう思っていた私の疑問が氷解した瞬間でした。
お金ならば、ほんとにわざわざ持ってこなくてよかったのに。タルタルがくると思ったから、個人情報さらけ出して待っていたのに。。。
お店からすれば「123円を今すぐもってこい」と仰るクレーマー以外の何物でもありません。アルプスの天然水くらいしか買えない。。
打ちひしがれて、お金を受け取り、家に入りました。
タルタルソースではなく、小銭の戦利品を持ち帰ってくる家主を暖かく迎えるのはカレーだけ。突き刺さる家族からの視線。
「どうみてもクレーマーじゃん」という心をえぐる言葉のナイフ。
カレーの味がほとんどしなくて、社会問題の最先端を爆走している感染症の味覚障害かと思いました。
え。。。これ、俺が悪いの・・・・??
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