私の両親は「お金や土地はあきらめろ。その代わり、誰にも奪われない財産をやる」という方針で、空手もその一つです。そしてもうひとつ親から身につけさせてもらってありがたいと思うのが「本を読む習慣」。
夏休みというこの期間。ぜひ1冊でも多くの本を読んでみてください。本を読むといいことの一つに語彙力が増える、ということがあります。
私たちは何か頭で物事を考えるとき、母国、つまり日本語で考えます。考えるための道具が語彙力になるんですが、これがあるのとないのでは大違いなんですね。そして、考えるという行為のスペックが違えば、仕事も生き方もクオリティが全く異なってくるでしょう。
一時期、「遺書」にはまっていた時期があります。いろんな人の遺書を読み漁っていたのですが、なかでも自殺やこれから死ぬ、という人の残す遺書には、文章に魂が乗り移ったかのような凄みを感じます。
語彙力がないまま一生を終えるとして、最後にこの世に残すことばが「マジぽんぽんペインでつらみが深いから逝きそう」みたいなのでしたら死んでも死に切れません。語彙力も表現も感性も磨きたい。
ぜひ紹介したい遺書(辞世の句)があります。福島県喜多方出身の穴澤利夫大尉のものです。第二次世界大戦の特攻隊に関する資料を集めた知覧特攻平和会館(鹿児島県)に展示されています。
大学時代に将来を約束した婚約者の智恵子さんへ宛てたものですが、残念ながら23歳のとき、出撃が決まってしまいます。言葉が少し難しいので、現代口語に直し、一部省略しました。
二人で力を合わせて努めて来たが,ついに実を結ばずに終った。 希望を持ちながらも,心のひとすみであんなにも恐れていた“時期を失する”ということが実現してしまったのである。
先月十日,楽しみの日を胸にえがきながら,池袋の駅で別れてあったのだが,帰隊直後,我が隊を直接取り巻く状況は急転した。発信は当分禁止された。転々とところを変えつつ多忙の毎日を送った。そして今,晴れの出撃の日を迎えたのである。
便りを書きたい。書くことはうんとある。
しかしそのどれもが今までのあなたの厚情にお礼を言う言葉以外の何物でもないことを知る。
今はいたずらに過去における長い交際のあとをたどりたくない。問題は今後にあるのだから。それとは別個に婚約をしてあった男性として,散って行く男子として,女性であるあなたに少し言っていきたい。
「あなたの幸せを願う以外に何物もない」
「いたずらに過去の小義にこだわることなかれ。あなたは過去に生きるのではない」
「勇気を持って,過去を忘れ,将来に新活面を見出すこと」
「あなたは,今後の一時一時の現実の中に生きるのだ。穴澤は現実の世界には,もう存在しない」
大好きな若葉の候が,ここへはじきに訪れることだろう。
いまさら何を言うか,と自分でも考えるが,ちょっぴり欲を言ってみたい。
読みたい本 万葉、句集、道程、一点鐘、故郷
見たい絵 ラファエル「聖母子像」…
智恵子 会いたい 話したい、無性に。
今後は明るくほがらかに。自分も負けずに,ほがらかに笑っていく。
今でこそLINEとかでぽんぽん告白したり付き合ったりという風潮ですが、彼女を愛するが故の言葉にあふれた遺書の切なさで、胸が締め付けられます。
私の誕生日が終戦記念日に近いこともあり、書いた人は福島出身で、展示は九州という、身近には感じずにいられないこの遺書。
智恵子夫人と穴澤大尉の恋愛模様は取材され、ドキュメンタリーやドラマにもなっています。そこらの下手な恋愛コメディよりもよっぽど面白い。いちばんおすすめなのは、これ。
私の大好きな漫画家さんが、智恵子夫人にインタビューの上、コミカライズしています。子供でも読みやすく、感動間違いなしの1冊です。
遺書に興味があります、というとだいたい引かれるんですが、その中には書いた人の人生そのものが詰め込まれています。人生を終えるとき、自分が生きてきた証としてすこしでも誰かの記憶に残る文章を残せるような生き方をしていきたいですね。
もうすぐ暑い終戦記念日。世の中から残酷な運命が、少しでも減りますよう。
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