2020年3月5日木曜日

LINEの一言が難しい

「あれ、どういう意味なんですか?」

そう聞かれたのは、LINEのステータスメッセージについてでした。




私がiphone3GSを使っていたときは、まだまスマホは一部のビジネスマンやガジェット好きな人たちが使っていたくらい。

それがいまや中学生もスマホをもっている時代です。中でもSNSの台頭は目覚ましい。そしてその代表といっても過言ではないくらいメジャーなツールが「LINE」であり、いまやコミュニケーションには必須のツールとなっています。


そしてこのLINEにあるのが、「ステータスメッセージ」という機能。読んで字のごとく、ステータスを知らせるメッセージですが、これの扱いが非常に難しいのです。


生きていく上で、まずその人のセンスが試されるのはメールアドレスでしょうか。@マーク以前は、その人のセンスや価値観や教養を盛大に露出させてくれます。

齢30を過ぎて、(自分の名前).(恋人・配偶者の名前).forever@docomo・・・みたいなアドレスを使用していたら社会において迫害されかねません。



しかし、メールアドレスには「無難」という抜け道があります。携帯契約時に初期設定されているランダムな文字列。これをそのまま使っている剛の者もたまにいるのですが、いかんせん自分で覚えるのが面倒ですし、人に伝えるのも面倒、打つのも面倒という修行僧みたいな様相を呈してしまいます。


なので、「自分や子供の名前と生年月日」のような差支えのない個人情報がとにかく無難。センスがいいとも思われませんが、「final.shinichiro@au...」みたいな自分史に燦然と輝くであろうメールアドレスを使って、人々の話題を裏でかっさらうような事態にも陥りません。なにがファイナルだ。



けれど、LINEの「ステータスメッセージ」はやや趣が異なります。

メールアドレスは、使用するにあたってほぼ強制されるセンス。対してLINEの場合は、空白なら空白でいい。使いたきゃ使え、という積極的な姿勢を求められる機能です。


しかもメールアドレスほどの効用はなく、主な機能は「己についての一言宣伝のみ」という尖った仕様。だから今までは空白にしていたのですが、それもなんだかもったいない。


学生時代の友人など、わざわざメッセージを送ることもないんだけど、元気にしてるのかな?って思ったときは、ここをみると意外な発見があったりします。


空白のままだと、生死不明。何かを叫びたいわけでもないですが、生きてるということくらいはプロフィールだけでわかるようにしておきたい。いっそ逃走中!みたいなノリで生存中!とでも入れておこうか。


そこから試行錯誤という名の迷走が始まったのです。日々の血圧の数字入れてみたり、「正職員@もうちょっとで解雇!」という独特過ぎるステータスを入れてみたり。悩みに悩み、最終的には自分の好きな言葉をいれてやや放置しておくということに落ち着きました。血圧なんて毎日は測れないですし。




「水能載舟、亦可覆舟」
―― 水には舟を浮かべて運ぶ力があるが、舟を覆すのもまた水である


出典は荀子の『哀公』ですが、知ったのはジャッキー・チェンの『酔拳2』というアクション映画です。

酔拳とは、酒を飲めば飲むほど強くなる、とされている拳法ですが、この映画では「アルコールによって痛覚が麻痺することで常人よりも耐久力が高くなる(気がする)」という現実的な解釈がなされています。


ジャッキー演じるフェイフォンのお父さんがとても厳格な人物で、とある乱闘をきっかけに、息子の身を案じて酔拳の使用を禁じます。その後、フェイフォンが持つ扇子に、墨痕鮮やかに書かれていたのがこの言葉でとても印象的でした。


極端に言えば酔拳を使うフェイフォンにとっては「酒に飲まれるな」ということなのですが、空手をはじめいろんな武道をしている人にとってならば「力を過信するな」という戒めの言葉なのです。


出典である荀子は儒学者ですので、歴代の君子の政治理想に由来しています。
なので政治関係から君子を舟、民が水とした比喩なのですが、その含蓄は政治以外にも学ぶところが多いのです。


空手を始めると、いろんな技や体の使い方を覚えます。そして試したくなり、試してみると何もしていない人に優越感を覚えてしまいます。そしてそれが過ぎると、やがて自分の身を滅ぼしかねない事態を招いてしまうかもしれません。


空手がもたらしてくれる力は、自分という舟の戦闘能力や生き方を充実させてくれる大きな水です。でもその自らを覆してしまうのもまた力であるということを覚えておかなければなりません。

だからこそ、心の鍛錬によって、常に謙虚であろうとするのです。自分に対しても、接する全ての人に対しても。

そしてその心構えを道場訓は、「謙譲の美徳」と教えてくれています。


空手を、人を制圧するための技術とその競技「だけ」と捉えるのは、あまりにもったいない。

そう思うのは私だけでしょうか?








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